タクシーであっち側へ行きかけた

今日、駒沢公園で撮影して会社にもどるタクシーの中で。

扉を開けたとたんにドランクドラゴンの塚地じゃないほうに似たおっさんが、私の顔を覗き込みながら「どうぞ」と二ヤリ笑った時点で降りればよかった。

おっさんの運転はどうもふわふわして頼りない。たまに私の顔を覗き込んでニヤニヤしながら話すことには、

「わたしが中学のときから通っている女医さんがいましてね、もうばあさんになっちゃったんですが。その人が、若いときって人間の生首で抜歯の練習するんですってね。そう、なんかおかしくなりそうですよね、夜中に練習が終わって冷蔵庫にその首をしまうときなんてそれはぞっとしたそうですよ。よく今でも夢にも見るって行ってたなあ」

「はあ……」

男の良くしゃべる人は、女の良くしゃべる人に比べて、キャッチボールが好きなわけではない人が多く、この人もそうで、なにか関連するトリビアをこちらも繰り出そうとしたのだが挟み込む余地は一切なし。

「昔の人は、すごいですよね。首をね、首級ってことで持って帰るんですからね。壮絶ですよね。体力あるなあ。首切り落として。長旅では腐るから塩漬けにしたそうじゃないですか」

味噌漬けにもしたんですよ。

「すごく怖い体験をしたときには人は気絶しますけど、逆に気絶しないで限界を超えると、キ××イになるそうじゃあないですか。人間ってよくできてますよね」

山田浅右衛門って、江戸時代に代々首切り役人やってたけど、これが『人の肝がらい病に効く』という流説を受けて、罪人の肝を××民(注・差別用語)に取らせて干してたんまり儲けてたって話ですよ。人の肝臓なんておどろおどろしくて私なんかは遠慮したいですね」


と、マジで15分くらいそういう話。しかも知的好奇心って感じじゃなくて、土着の民の怪談話。ラジオだったらピー音でなにがなんだか分からないくらいの飛ばしぶりでした。

昭和……。