正力松太郎伝

新聞の勧誘の景品に出刃包丁があったら、刃を相手に向けて紹介せよという勧誘マニュアルがある、勧誘員に部屋に居座られて恫喝される、yorimoのネット会員に登録すると勧誘員が翌日訪問……などの販売促進伝説がつきない読売新聞。都市伝説の一種かと思いきや、この本を読んだらあながち嘘でもないだろうという気にさせられました。

正力松太郎とは、読売新聞を今のように5大新聞とか言われる位置へと押し上げた中興の祖…というべきか。
そのメソッドは、・徹底した大衆迎合主義 ・モーレツ販売店宣言 の二つ。良質の記事で読者を引きつけるという考えは一切ありませんでしたなんて著者も容赦ないわね。

人物像はおよそ理念や道徳、倫理観というようなものが見られない一ミリも尊敬出来ないパーソナリティがお届けする壊れたブルドーザーみたいな感じで描かれています。
(風呂のマナーが悪くて笹川良一に注意されたとか落とした肉を拾って食べたとか)

その一例をあげると、
・警視庁時代に起こった関東大震災で、共産党員や朝鮮人虐殺を黙殺
・部下の手柄を横取り
プロ野球創立のため、目をつけていた選手(外国人)が入団を拒否すると、裏に手を回して国外追放か入団かどちらかを選ばざるを得ないような状態にしたて無理強い
・買収、裏金
・新聞記事ねつ造
・放埒経営の帳尻を合わせるため12億の利益の会社で12億粉飾決済、更に部下をだましてケツもちさせる
・安全性そっちのけで原子力発電所を建設。各地でウラン(を採掘して一発当てよう)ブームの仕掛人に。採掘場では特に防護服も付けさせず工員に仕事をさせる、その後多くがガンで死ぬ。また、「ウランを照射すると安いお茶が玉露のように、安い酒が極上の味に、そして健康に」などの恐ろしい健康ブームを仕掛ける

その他ホントかどうか、全て彼に責任があるのかちょっと分かんないけど恐ろしい豪腕ぶりのオンパレード。田中角栄的なこのような昭和の怪人像は、スケールの大小はあれど、私たちの祖父あたりにはよくいた感じの懐かしさを覚えるところもあります。

プロ野球や、テレビの熱狂は今やもう私たちはシニカルにしか捉えられることのほうが多くなっているわけだけど、これはもはや時代が変わったという以外の何者でもないのだろうとやけに実感させられます。だからみんな嘆かないでいいよ。古き良き昔とか単なる感傷だし次の手を考えた方がいいよっていう。

あと色々読んでるとナベツネVSホリエモンみたいな図式とにたよーな事件や軋轢も描かれていて、色んな意味で新旧の似た者同士だったのでは……という感じ。
ただホリエモンとかがつぶされちゃったのは、じじぃに比べてまだまだナイーブだったし、(悪い意味で)スケールが小さすぎたというのが敗因でしたというオチ。

わたしはホント今の時代に産まれて来て良かった。こんな人がオッケーだった時代はちょっと無理かな! 文化的に生きたいし!